* 目次 [#d2e398bc]
#contents

* AGI時代の「評価の一元化」が奪う再起の権利 [#i7084757]

この文章は20年後や30年後の世界に対する、現在のわれわれの心構えについての警鐘みたいな文章です。

AGI時代、企業が国家よりも力を持ってしまう時代になるだろう

** 不当な評価という個人的な経験から [#c3384606]

私は何度か、働いている企業から不当な評価を受けたことがある。理不尽な低評価、意図的に陥れられた経験もある。その時は苦しかったが、幸いにも転職や独立という「逃げ道」があった。別の組織、別のコミュニティでは、私は異なる評価を受けることができた。

しかし、ふと考える。もしAGI時代に、評価が一元管理されていたら?

企業Aで付けられた「低評価」が、一生消えないデジタル記録として残り、転職先の企業Bも、フリーランスのクライアントも、すべてその評価を参照する世界。そこでは、一度の失敗、一度の不当な評価が、再起不能を意味する。

これは、SFの話ではない。AGI時代が2年後に来ると仮定すれば、この未来は驚くほど近い。

** AGI時代における評価の必然的な一元化 [#xdbdf8ca]

AGIは効率化を追求する。そして、効率化の究極の形は「すべてを評価し、最適に配置する」ことだ。

- 従業員の評価をAGIが分析し、最適な人材配置を提案する
- 取引先の信用スコアをAGIが算出し、契約の可否を判断する
- 消費者の購買履歴や行動パターンから、信用度を評価する

これらは個別には既に存在している。問題は、AGIがこれらを統合し、一つの「評価基盤」として機能し始めることだ。

そして、その評価基準を設定するのは誰か? 力を持つ企業である。GAFAMのような巨大テック企業、あるいはAGIを所有する企業が、事実上の「評価の神」になる。

** 資本が資本を生むように、評価が評価を生む [#ddd7da88]

資本主義において、資本を持つ者はより多くの資本を集める。同じことが評価にも起こる。

''高評価を得た人は:''
- より良い仕事の機会を得る
- より高い信用で融資を受けられる
- より多くのネットワークにアクセスできる

''低評価を得た人は:''
- 仕事の機会が減る
- 信用が得られず、資金調達も困難
- 社会的に孤立する

そして恐ろしいのは、'''評価基準を決めるのが評価する側'''だということだ。

企業にとって「良い従業員」とは、従順で文句を言わず、長時間働く人間かもしれない。政府にとって「良い市民」とは、異論を唱えず、税金を払い、統計に協力する人間かもしれない。

つまり、評価の一元化は、権力者にとって都合の良い人間だけを生き残らせる仕組みになる。

** 中国の社会信用スコアは予行演習に過ぎない [#ca1141e3]

中国の社会信用スコアは、しばしば「ディストピア」の象徴として語られる。しかし、AGI時代にはこれが世界規模で、より精緻に、より逃れようのない形で実装される可能性がある。

違いは、AGIがあらゆるデータを統合し、リアルタイムで評価を更新し続けることだ。あなたの発言、購買履歴、移動パターン、SNSの投稿、取引先との関係——すべてがスコアに反映される。

そして、企業が国家の役割を担い始めると、この評価システムは事実上の「社会参加許可証」になる。

** 再起の権利が失われる社会 [#kae9dfe0]

私が最も恐れるのは、「再起の権利」が失われることだ。

人は間違える。不当に陥れられることもある。時には、自分が正しいと信じて行動した結果、組織から低評価を受けることもある。

しかし、評価が一元管理され、永遠に記録される世界では、やり直しが効かない。一度の失敗、一度の不運、一度の不当な評価が、その人の人生を決定してしまう。

これは、人間性の否定だ。人間は変わる。成長する。環境が変われば、評価も変わる。それが生きるということだ。

* 遺伝子格差:評価以前の不平等の固定化 [#w59740be]

評価の一元化よりも、さらに根源的な問題がある。遺伝子編集によるデザインベビーだ。

** 医療という正当化から始まる [#z5e2a331]

最初は誰も反対できない。

- 「不妊治療の成功率を上げるため」
- 「重篤な遺伝病を避けるため」
- 「健康な子供を授かるため」

これらは人道的で、合理的だ。政府も段階的に合法化していくだろう。

しかし、技術が進歩すると境界線が曖昧になる。

 遺伝病の回避 → 病気のリスクを下げる → 免疫力を高める
 → 身体能力を向上させる → アスリートレベルの能力を

 健康な子供 → IQを平均以上に → より高い知能を
 → 天才レベルの認知能力を → 特定分野の天才を

どこまでが「治療」で、どこからが「強化」なのか?

** 富裕層だけの「オプション」 [#g496b253]

遺伝子編集は高額になる。初期費用は数千万円から億単位かもしれない。

'''富裕層は子供に投資する:'''
- 高い知能
- 優れた身体能力
- 病気への耐性
- 容姿の最適化
- 社交性の向上

'''一般家庭は「自然な子供」を持つ:'''
- 遺伝的な運に任せる
- 病気のリスクも受け入れる
- 能力も平均的

結果、'''遺伝子レベルで階級が固定化される'''。

これまでは「生まれは選べないが、努力で変えられる」という希望があった。しかしデザインベビーの時代には、スタートラインが遺伝子で決まる。

努力では埋められない格差が生まれる。

** 子供は「人形」になるのか? [#ecc8a7a4]

さらに深刻なのは、デザインされた子供と親の関係だ。

親は巨額を投資し、「理想の子供」を設計する。その期待は重い。

- 「高いIQを選んだのだから、医者になってほしい」
- 「運動能力を最適化したのだから、プロアスリートに」
- 「この顔に何千万円も払ったのだから、モデルにでも」

子供は、親の期待を具現化した「作品」になる。自分の意思ではなく、親の設計に従って生きることを暗に強制される。

'''子供は人形なのか? 投資商品なのか? それとも人間なのか?'''

** 「自然な子供」への差別 [#zf88a4bc]

もう一つの問題は、デザインされていない子供への差別だ。

AGIが人材を評価する時代、遺伝子情報も考慮されるかもしれない。

- 「この候補者は遺伝子編集を受けていない。病気のリスクが高い」
- 「認知能力の遺伝的上限が低い。管理職には不向き」
- 「自然妊娠で生まれた子供。最適化されていない」

かつて「家柄」で人を差別していた時代があった。AGI時代には「遺伝子の最適化度」で差別する時代が来るかもしれない。

** 人間とは何か?という問い [#ca708949]

デザインベビーが当たり前になった時、私たちは何を失うのか。

'''多様性の喪失:'''~
富裕層が選ぶ「理想の遺伝子」は似通ってくる。高いIQ、健康な身体、整った容姿——結果、人間の多様性が減る。

'''偶然性の喪失:'''~
人間の人生には、予期しない才能、思わぬ出会い、偶然の幸運がある。すべてが設計された人生に、そのような驚きはあるのか?

'''人間の定義の揺らぎ:'''~
「設計された人間」と「自然な人間」——両者を同じ「人間」と呼べるのか? 権利は平等なのか?

** 不便だからこそのありがたみ [#wa972185]

私は以前、「不便だったからこそ、ありがたみに気づくことができた」と感じたことがある。

完璧に設計された人間には、その「ありがたみ」を感じる機会があるのだろうか?

- 欠点があるからこそ、他者の優しさに気づく
- 失敗するからこそ、成功の価値がわかる
- 偶然に左右されるからこそ、人生は面白い

デザインベビーは、この「不完全さの価値」を奪うかもしれない。

* 抵抗の可能性 [#e7bd173f]

** 評価の分散化 [#r54944f8]

では、どうすればいいのか。

一つの答えは、'''評価を分散させること'''だ。

- 複数のコミュニティが、それぞれ独自の評価基準を持つ
- 個人が自分の評価データを所有し、管理する
- 評価に「忘れる権利」を組み込む
- 一つの組織の評価が、他のコミュニティに影響しない

技術的には、ブロックチェーンやP2P技術を使った分散型評価システムが考えられる。思想的には、多元的な価値観を認める社会の設計が必要だ。

これは非効率かもしれない。AGIが提案する「最適解」ではないかもしれない。

しかし、効率だけを追求した先にあるのは、人間が生きる価値を失った世界だ。

** 遺伝子差別への抵抗 [#r32622bf]

デザインベビーを止めることはできないだろう。技術的に可能で、需要があり、初期は医療として正当化される。

しかし、私たちにできることはある。

'''思想として残すこと:'''
- 人間の価値は遺伝子で決まらない
- 不完全さにも意味がある
- 子供は親の作品ではなく、独立した人格だ

'''制度として抵抗すること:'''
- 遺伝子情報による差別を禁止する法律
- デザインベビーの「オプション」に制限を設ける
- 「自然な子供」への社会的支援

これらは非効率かもしれない。しかし、効率だけを追求した先にあるのは、人間が「製品」になった世界だ。

* 評価の一元化と遺伝子格差——二重の抑圧 [#n2aa0df7]

評価の一元化とデザインベビーは、セットで機能する。

 遺伝子で「スタートライン」が決まる
    ↓
 AGIの評価で「到達点」が決まる
    ↓
 両方とも、力を持つ企業がコントロールする

この二重の抑圧から逃れるには、「評価の分散化」と「遺伝子による差別の禁止」の両方が必要だ。

** 未来への種を残す [#m1a37acb]

AGI時代が2年後に来るなら、今から動かなければ間に合わない。

私は、この「評価の分散化」という思想を、技術的なプロトタイプと共に残したいと思っている。それが使われるかどうかは分からない。しかし、種を残すことはできる。

''あなたは、一元管理された評価システムの中で生きたいだろうか?''~
''それとも、不完全でも、複数の評価軸が存在する世界を選ぶだろうか?''

''あなたは、自分の子供を「設計」したいだろうか?''~
''それとも、偶然に委ねる勇気を持つだろうか?''

効率と自由、便利さと人間性——このバランスをどう取るかが、AGI時代を生きる私たちに問われている。
トップ   編集 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS